2012年4月10日火曜日

ボンボンはスズランテープで自作しました

非番日だったので、カラオケに行った。平日休みの友人もいないので、一人でだ。一人でカラオケと言うと、最近は市民権を得てきたとは言え、未だに「あらまァ……」などとかわいそうな目で見られることも多いのだが、こんなに楽しい娯楽は他にないと私は思っている。何しろ、他人の目を気にすることなく、いくらでも好きな歌を歌い続けることができるのだ。「これ、好きなんだけどみんな知らないだろうな……」「歌ってみたいけどサビ以外不安だしな……」などという小さなことを気にすることもない。好きなだけ一人の世界を堪能できる、この世の最後の楽園……それこそが一人カラオケなのだ。


慣れた口調でフロントで「一名です」と名乗る。勝手知ったると言わんばかりの表情で、フロント係の女性は「ではこちらのお部屋で。ワンドリンクオーダー制ですが、ドリンクバーになさいますか?」と尋ねてきた。ここで選択するのは、もちろんドリンクバー。この選択ならば、自分の世界に没頭している最中の闖入者を防ぐことができる。無糖紅茶をチョイスし、部屋に入れば、そこはもうパラダイス。外界から完全にシャットアウトされた、私だけの聖域(サンクチュアリ)……さぁ、始めようか狂乱の宴を。とりあえず、ずっと歌いたかったこの曲とこの曲とこの曲をセットし、立ち上がって……それっ!!


「お待たせいたしまし……えっ!?」


突如破られた聖域の結界。望まぬオレンジジュースを携えてやってきたウエイトレスが見たものは、黄色いボンボンを持って『女々しくて』を踊り狂う三十路間近の肥満男の姿だった。カタカタ震えるウエイトレスと、石化したかのように固まった私の間に、パサッと音を立てて落ちたボンボン。搾り出すように「……うちの部屋じゃ、ないと思いますよ……」と呟いたときには既に彼女の姿はなく、私は、またひとつの居場所を失ったことに気づいたのだった。

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