2012年6月13日水曜日

オメガ

分不相応にもオメガのスピードマスターを持っているのだけれど、乱暴に扱っていたら動かなくなり、修理に出すのも金がかかるということで、数年間放置していた。宝の持ち腐れなのは百も承知ではあるが、万年金欠の我が身としては致し方ない部分もあったのだ。


しかし、自分もとうとう三十路。この節目に、止まった時間を再び動かすのも悪くはないかも知れぬ。そう思い、修理屋に持って行ったのは一週間前。そして今日、もりもり昼食を食べていた私の元にかかってきた電話は修理工からのもので、彼は事務的な声で「七万円です」と告げた。足元がガラガラと崩れていく思いがした。ななまんえん!!オーバーホールは二万円弱って言ってたじゃない……そう食い下がると、彼は「使い方があまりにも雑で、全てを直すにはこの金額になる」とにべもなく言い放った。全てはずさんな私の管理体制にあったということか。それにしたってオメガよ。それなりの値段のするものなのに、貴様はどうしてそんなにも脆いのだ。乱暴にといったって、冷蔵庫の上から数度落としたくらいのことではないか。それが、やれひびが入っただの外周が凹んでいるだの、そんなやわな作りで許されると思っているのか……それにしたって貧しいこの身の上から七万円の出費は大変痛い。何かいい方法はないだろうか……そう思っていた矢先に父からメールがきた。鬱陶しいと思いながら本文を開くと、『誕生日プレゼントをやろう。何がいいか言ってみなさい』との文が。これを逃す手はなかった。


『大好きなパパへ。七万円ください』


降って沸いた幸運をかみ締め笑顔でせこせこメールを打つ私に、一緒に食事をしていた後輩は「三十路として最悪の行為ですね」と言い放った。その冷徹な表情に私の笑顔は凍りつき、私はうすぼんやりと「Gショックにするか……」と思うほかなかった。落としてもブン投げても壊れないGショック。そういうものに、私はなりたい。

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